はじめに
アレルギー疾患が急増しています文献1。特に小児科領域では、明らかなアレルギー疾患の前の未病状態の(軽い乾燥肌、熱のない風邪症状(長引く咳や鼻汁)、多動系気味の子などはっきりとした病名がつかないが、健康でもない状態の子供たちが増えています文献1 (図-1) 。見た目のグレイーゾーンの症状を環境病として米国の臨床環境医学では、積極的に栄養サプリメントや免疫療法(舌下免疫や自己皮下注射等や栄養サプリメント)をしています。
1) 栄養サプリメントの必要性について
最新の治療法で多くの化学物質過敏症やアレルギー疾患の治療に大きな成果をあげているDoris.J.Rapp博士の著書によると(同博士の著書”IS THIS YOUR CHILD? 27章文献2より)
人々は誰でも好むと好まないに関わらず、多少の化学物質や環境汚染物質に曝されています。それから体を守るのに必要とされる栄養素の需要が増えていく状況にありながら、栄養学的に不十分な食事に依り適切な摂取が難しくなっています。
食物の消化がきちんと行わなければ、食べ物は小さな分子まで分解されず、大きな分子のまま吸収される事なり、ひいてはそれがアレルギーの素地の増大へと繋がっていくのです(リーキーガット症候群、腸管壁浸漏症候文献3)。免疫システムが汚染物質によって妨害され、ダメージを受ける事は疑いの余地がありません。生体内は、健康を維持するために銅、亜鉛、マグネシウム、セレン、マンガンのような微量金属元素を消費します。ピタミンBやビタミンC等の栄養素は同様に食べ物を分解して体に必要な物質に変える酵素に欠かせません。
身の周りの環境汚染物質、ベンゼン、炭化水素、殺虫剤の解毒にビタミンCの必要性が益々増大します。有害な汚染物質が急速に増え続けており、細胞内の正常な機能を維持する為に、ビタミンCのみならず他のビタミン、微量金属元素の必要性も益々増大するのです。
2)栄養素の不足に関与するその他の要因
パンやミルク製造など、流通の過程でビタミンの大半がなくなってしまうために栄養素の欠乏が生じます。そして、栄養素の少なくなった食品には皮肉にも”栄養リッチ”な食品と謳われて消費者に売られているのです。
アレルギー疾患を持つ人は比較的大量のビタミンC2000mgから4000mg(成人量で小児ではYoungの公式:乳児1/5,1歳1/4,3歳1/3、7歳1/2、12歳2/3)やマルチビタミン、マルチミネラル、亜鉛、カルシュウ・マグネシュウム、にがりや抗酸化作用のCoQ10、α-リポ酸などの栄養サプリメントを摂取するのがよいでしょう。分子矯正学的に正確に栄養状態をはかるのには、毛髪検査が理想的ですが、実際では臨床的に血中の亜鉛濃度や25-OHビタミンD、フェリチンを測定すると不足状態がわかります。魚に過敏性のある人は、必須脂肪酸EPA,DHCのサプリメントが必要です。特定の食べ物に過敏性を持つ子供達は食事においてもその食べ物が原料ビタミンを取らないほうがよいでしょう。
人によって必要な栄養素は十人十色です。栄養の過不足に問題がある場合、専門家によりビタミンのレベルのモニタリングが必要な子供達も中にはいます。 有害な化学物質過敏症物質に曝されているので、細胞内に於ける正常な機能を維持するために、ビタミン、ミネラル、微量元素が必須です。有害物質の毒性故に、体内ではビタミンなどをたくさん利用して解毒にあたりますが、必要な栄養素は、食事からだけではとても間に合わない時代です。
解毒システムが疲弊気味なので私達の体は、半健康/半病気となり、もし機能不全に陥ればバランスを失って本当の病気になってしまいます。
3)アレルゲン特異的免疫療法の必要性について
アレルギーの根本治療はアレルゲン特異的免疫療法AITです。(減感作療法,中和療法等) 原因抗原を、充分希釈して皮下注射や舌下投与して体質改善する治療法です。食物アレルギーはリーキーガット症候群と深く関係しています。食物抗原の5大抗原(卵白、牛乳、大豆、米、小麦)が皮内テストすると全てに陽性であり、全てを除去食することは不可能です。これらの抗原を逆に希釈して症状を中和する療法があります文献5)。
米国の臨床環境学会では、食物抗原、ダニカビ花粉などの生物学的抗原の他に、神経伝達物質のヒスタミンやセロトニンやAch(アセチルコリン)や生物学的抗原の常在細菌の肺炎双球菌(かつて日本でもブロンカスマベルナやパスパートという細菌菌体製剤が使用されていた時代がありました。)インフルエンザウイルスの抗原液でのAITをして体質改善をしています。米国のDr. William J. Rea の著書では、治療後のDDTやPCBが著しく低下しているデーターを示しています文献6)。最近、日本でもダニ・スギ舌下免疫が保険適用になり、ハウスダスト・スギの病院内での皮下注射以外に自宅での舌下錠が処方できるようになりました。又、最近の研究で食物アレルギーでの経口免疫療法で、低濃度の抗原を食べ続けると悪玉マスト細胞が善玉マスト細胞に徐々に変身してマスト細胞自体がIL-2, IL-10を分泌して、制御性T細胞の増加していく機序が報告されております文献4)。皮下注射法や舌下法での同様な機序が考えられます。
一方、大脳辺縁系の中枢神経系は、血液脳関門を欠いており(脳の窓)、直接的に環境中の極微量の化学物質やダニ抗原などの刺激が大脳辺縁系に伝わります。特に脳内に唯一存在するマスト細胞が豊富にある部位である正中隆起の機能異常に関与している可能性があります。この正中隆起は、内分泌学的にCRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)を分泌してACTH、糖質コルチコイドを分泌して各種ストレスに対抗して恒常性を維持しています。ところが体内汚染物質の蓄積や環境中の微量の化学物質やダニに曝されて、この部位が疲弊して“副腎疲労症候群”(だるさ、疲れやすい、立ちくらみ、アレルギー症状等)が前述した環境病(半健康半病気)や石川らはⅠ期(半健康/半病気)これらを(広義の化学物質過敏症と呼んでいる)と一致しております。環境ストレスのセリエの過程(警告期、抵抗期、衰弱期)文献12)と同じ過程を経過していきます。
栄養サプリメントにより、大量の活性酸素を消去できるようになり、免疫学的にAITによりマスト細胞が悪玉から善玉マスト細胞に変身すると、中枢性的に改善して“逆・視床下部症候群的”に患者さんは、改善していきます。即ち食欲が増し、体重が増えて、風邪が引きにくくなり、肌質がよくなり、生き生きとした状態になります文献2,8)。当院でも上記症状が観察されて、小児患者に中長期的に体質改善がみられます。風邪にかかりにくくなり、体重が増え、体幹がしっかりして、話す語彙が増えたり、多動傾向が減少したり、夜尿症が治ったり、精神運動発達が正常化していく傾向があります。乾燥肌がよく真っ白な肌がしっとりして厚くなり黄色人種の黄色さになり、健康状態が良くなります。米国のDr. William J. Rea の著書では、治療後のDDTやPCBが著しく低下していること文献6)と矛盾がありません。
4)生体内異物の蓄積症としての化学物質過敏症
アレルギー体質の背景に生体内異物(DDTやPCBや重金属の水銀・ヒ素など)があります。これらの物質は、胎盤通過性があり、胎児から暴露されています文献10。胎児暴露の影響は、不育症や流産の性比(男子が女子の2倍以上流産している)、DOHAD学説脚注1、内分泌かく乱物質として、免疫毒性や神経毒性や精子減少や卵の老化現象などの生殖毒性があります。これらの毒性として生体内では、大量の活性酸素が発生して多臓器で健康度を下げていきます。生体内異物の濃度と健康度の関係から、石川らはⅠ期(半健康/半病気)これらを(広義の化学物質過敏症と呼んでいる文献7)、Ⅱ期アレルギー疾患、Ⅲ期慢性中毒期に分類しています文献7)。これらのステージ悪化進展は、活性酸素消去するスカベンチャー機構のSOD(微量元素Cu/Zn, 0Mn依存性酵素、Catalase(Fe) Glutathione .peroxidase(Se),Lipid Peroxidase(Se)酵素群の残存能力に規定されています文献13)。食物連鎖で生物学的濃縮での体内に蓄積して、野生生物での異変が指摘されております。食物連鎖の頂点に位置する人類でも影響でないはずがありません。DDTが次世代F1次々世代F2にも影響がある報告されていている文献11)ことを考えれば、アレルギー疾患の早期発見・早期治療が大切であります。
最後に従来の臓器別の薬物療法を中心とした伝統的医学と解毒を目的とした新しい臨床環境医学の両方の必要性があると思われます(図-2) 。
脚注1
Developmental Origins of Health and Disease )仮説とは、
成人病および生活習慣病胎児期発症起源説と呼ばれることもあり、 胎児期から出生後早期の環境がその後の人生及び成人期における病気や生活習慣病のリスク要因になるとする仮説 です。)
文献
1)足立雄一:増え続けている食物アレルギー食物アレルギーの症状と種類―https://medicalnote.jp/contents/170404-001-NC(2021.10.17)
2)Doris Rapp:Is this your child,Quill William Morrow,New York 991. p530-552.
3) 遠藤宏樹1, 中島 淳1:腸内細菌と小腸粘膜障害,Leaky Gut症候群、医学のあゆみ Volume 251, Issue 1, 95 – 99 (2014 (2014)
4)高砂義弘 ,倉島洋介:Mucosal Immunol( 2020年12月10日オンライン版 ) 経口脱感作マスト細胞は、食物アレルギーの制御のためにTreg細胞を有する規制ネットワークを形成する – PubMed (nih.gov)
5)William J. Rea:Chemical sensitivity.In.Lewis Publishers Boca Raton、U.S.A.1997,pp2481-2540.
6)William J. Rea:Chemical sensitivity.In.Lewis Publishers Boca Raton、U.S.A.1997,pp2433-2479
7)石川 哲、宮田幹夫:あなたも化学物質過敏症?(暮らしにひそむ環境汚染 農村漁村文化協会、東京.1993,pp88.
8)C.S.Miller:Possible Models foor Multiple Chemical Sensitivity;Conceptual Issues and Role of the Limbic System.
Toxicology and industrial Heath,p181-202,1992.
9)William J. Rea:Chemical sensitivity.In.Lewis Publishers Boca Raton、U.S.A.1997,pp2455.
10)森 千里:胎児の複合汚染―子宮内環境をどう守るか.中央公論新社、東京.p129
11)Cirillo PM, et al. Grandmaternal Perinatal Serum DDT in Relation to Granddaughter Early Menarche and Adult Obesity: Three Generations in the Child Health and Development Studies Cohort. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2021 Apr 14. Online ahead of print.
12)石川 哲、宮田幹夫:あなたも化学物質過敏症?(暮らしにひそむ環境汚染 農村漁村文化協会、東京.1993,pp70-77.
13)William J. Rea:Chemical sensitivity.In.Lewis Publishers Boca Raton、U.S.A.1997,pp2102-2105.
札幌でむら小児クリニック
院 長 出村 守